le vent - 君を願う -
Posted by 蘇 芳 on
風になる
君が迷わないように
遠回りをしても
此処へ辿りつけるように
君が光に癒やしを求めるなら
星を隠す雲を払ってあげる
心が乾いて羅針が狂ったのなら
波を立て
その呪縛を解いてあげる
触れられない君に
いつも
いつの時も
その寂しさのとなりで
小さな肩のとなりで
僕は君の風になる
風になる
君が迷わないように
遠回りをしても
此処へ辿りつけるように
君が光に癒やしを求めるなら
星を隠す雲を払ってあげる
心が乾いて羅針が狂ったのなら
波を立て
その呪縛を解いてあげる
触れられない君に
いつも
いつの時も
その寂しさのとなりで
小さな肩のとなりで
僕は君の風になる
庭を打つ雨に
僕は何もできないまま
窓越しに君の花をみていた
あとからあとから降る雨は
この部屋の時間軸を狂わせる
潮騒に変わる雨
雲間から射す光
跳ね上がる波の向こうに
不意に君は現れる
眠りでもない
現実でもない
そんな不確かな世界の罠に
どうして僕は
囚われるのだろう
満ちてゆく
風が
大潮を連れて
静かな時を刻んだ
地表の営みは
空への供物のように
美しく
気高い
訪れる海
幾億の昼と夜とを従えた
荘厳なパノラマの中で
僕たちはまた すれ違ってゆく
終わらない風景
くり返す約束
あふれた想いは海嘯のように
いつか君に辿りつくだろうか
海図に記されたのは
風のメソッド
癖のある文字で書かれた
暗号と草案
完全なルートなど無いものだよと
傷つくことさえも代償のように笑う
ああ
そうだね
いつだって平気そうな顔をして
痛みと成就は等価だと
また白い帆を立てるんだろう
耳をすませてごらん
聞こえるだろう
羽化する天使の翅の音が
月の引力に従う 森の覚醒が
この夜のどこかで
息づく君を想うと震える
淡翅の影
ほら
ごらん
隙を窺いながら満ちる
月齢14.9
漆黒の右手が鏃をつがえ
ぎりぎりに引き絞られた光の征矢は
風を連れ
躊躇いもなく この世界を射抜いてく
夏の微かに
浮かび上がる描線と
光が統べる
繭糸の髪を滲ませながら
君は視線を合わせ
僕の心臓を
一度だけ止めた