green
朝の光をくぐって触れてくる
君の温度が好き
風になる
君が迷わないように
遠回りをしても
此処へ辿りつけるように
君が光に癒やしを求めるなら
星を隠す雲を払ってあげる
心が乾いて羅針が狂ったのなら
波を立て
その呪縛を解いてあげる
触れられない君に
いつも
いつの時も
その寂しさのとなりで
小さな肩のとなりで
僕は君の風になる
庭を打つ雨に
僕は何もできないまま
窓越しに君の花をみていた
あとからあとから降る雨は
この部屋の時間軸を狂わせる
潮騒に変わる雨
雲間から射す光
跳ね上がる波の向こうに
不意に君は現れる
眠りでもない
現実でもない
そんな不確かな世界の罠に
どうして僕は
囚われるのだろう
満ちてゆく
風が
大潮を連れて
静かな時を刻んだ
地表の営みは
空への供物のように
美しく
気高い
訪れる海
幾億の昼と夜とを従えた
荘厳なパノラマの中で
僕たちはまた すれ違ってゆく
終わらない風景
くり返す約束
あふれた想いは海嘯のように
いつか君に辿りつくだろうか
海図に記されたのは
風のメソッド
癖のある文字で書かれた
暗号と草案
完全なルートなど無いものだよと
傷つくことさえも代償のように笑う
ああ
そうだね
いつだって平気そうな顔をして
痛みと成就は等価だと
また白い帆を立てるんだろう
耳をすませてごらん
聞こえるだろう
羽化する天使の翅の音が
月の引力に従う 森の覚醒が
この夜のどこかで
息づく君を想うと震える
淡翅の影
ほら
ごらん
隙を窺いながら満ちる
月齢14.9
漆黒の右手が鏃をつがえ
ぎりぎりに引き絞られた光の征矢は
風を連れ
躊躇いもなく この世界を射抜いてく
夏の微かに
浮かび上がる描線と
光が統べる
繭糸の髪を滲ませながら
君は視線を合わせ
僕の心臓を
一度だけ止めた
濡羽色の髪を
ゆるい風に預けて
窓辺にうつむく項
徒に触れると嫌がる
眠れる君の頬に挨拶を交わすと
吐息に纏わりつく
ダージリンの香が揺れた
囈言
微睡みの中にまで
持ってはゆけない 嘘を置き去りにして
隙だらけの夢に支配されながら
君は此処で
何を手放すのか
翠緑の淵で手に触れた
野茨の棘にキスをする
一瞬の抗いに
唇を赤く滲ませても
何食わぬ顔で視線を合わせた
殊勝なふりをして
非道いな、などと
思ってもいないくせに
見透かしたように笑うのは
今に始まったことじゃない
観念するほどの至情
タチの悪い距離感
そんなものを侍らせながら
悪ふざけだよと
一変して引潮のように遠ざかる
読めない謀
暗黙の聖域
その境界を毀したら
いったいどんな顔をするだろう
唐突に囁く
優しい呪縛
気化した汗から漂う
ラベンダーの香
少し首を傾ければ
聞こえる心臓の音に
安堵する
距離
out of the blue
音の無い午后に囚われた
刹那という永遠
空を見上げる癖は
行き場のない想いを
風に乗せるため
ほんの少しの澱みも
今は手離したい
そんな幼い願いさえも許しながら
そのまま歩いてごらん と、
否定もせずに佇む人
それが君の世界なら
後悔はないだろうと
耳に馴染んだ声が一拍置いて
ささくれた心を凪いでいく
なんだ
そう云うことか
ただ 誰かに
見ていて欲しかっただけだ
我儘に描いていく流線を
しばらくは此処で
その傍らで